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熊本家庭裁判所 昭和32年(家)12号 審判 1957年4月04日

甲立人 清川安子(仮名)

事件本人 未成年者 清川孝一(仮名)

清川孝二(仮名)

清川孝三(仮名)

清川孝子(仮名)

主文

申立人を未成年者清川孝一、同清川孝二、同清川孝三、同清川孝子の後見人に選任する。

理由

本件申立の要旨は、事件本人等は申立人と韓国人韓炳欽との間の嫡出子であるが、韓炳欽は申立人と離婚後、事件本人等を申立人方に遺した儘、行方をくらまし事件本人等の親権を行う者がないことになつたから事件本人等を扶養している申立人を後見人に選任してもらいたいと云うのである。

よつて審按するに事件本人等は日本国に住所を有する大韓民国人であるから法例第二三条第二項により事件本人等の本国法により後見開始の原因あるも後見の事務を行う者なきときに限り日本国の法律に依ることになる。そこで事件本人等の本国法が如何なる法律であるか、そしてその本国法により後見開始の原因があるかが問題となるが、当裁判所が調査したところによれば現在大韓民国に於ては身分法について成文法がなく、日本国の旧民法の内容に準ずる慣習法が行われていることが認められるので、この慣習法が本件に適用すべき事件本人等の本国法と云うことになる。而して旧民法第九〇〇条によれば未成年者等に対し、親権を行う者なきとき、又は親権を行う者が管理権を有せざるときは、後見が開始すると規定せられている。然るに当裁判所が必要な調査並に審問をなした結果によれば、事件本人等の親権者は犯罪を冒して懲役刑に処せられ、刑務所出所後は、事件本人等を遺棄して所在をくらましており、当裁判所は漸くその所在を確め得たが今後も現在地に安住する見込なく寧ろ、諸所を転々し事件本人に対して親権を行うことができないものと認められるのである。

以上の事実は前記旧民法第九〇〇条の未成年者に対し、親権を行う者がないときに該当し、事件本人等に対し後見が開始し、同法第九〇一条による指定の後見人もなく、又同法第九〇三条による後見人となるべき戸主も存在しないので法例第二三条第二項の(後見開始の原因あるも、後見の事務を行う者なきとき)に該当し事件本人等の住所地である日本国の法律によるべきものということになる。果してそうだとすれば本件申立は民法第八三八条、第八四一条、第八四六条、家事審判規則第八二条、第八三条に照して相当と認められるので正当としてこれを認容することとし主文の通り裁判する。

(家事裁判官 森岡光義)

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